第三話 「戦の影」



 王宮は、にわかに騒がしい。


 たかが賊の討伐に3つもの騎士団を向かわせたにも関わらず、その騎士団が全滅したのである。
 臣下達がこめかみに血管を浮かび上がらせるには十分な理由と言えた。
 王宮内にしつらえられた幾つかの会議室からは、怒声とも似つかぬ言葉が飛び交っている。

 そして、ただならぬ様相なのは女王も同じであった。

「これは一体どういう事じゃ!!」
 普段は発せられる事など無い女王の大音声の叱責に、その場に居る者達は残らず首を竦めた。

 騎士団全滅の報が届いてすぐ、残っている騎士団長及び重鎮達はこの謁見の間に呼び寄せられた。
 そして待っていたのは女王の渋面と、激しい叱責である。

「貴様ら騎士団が不甲斐無いお陰で、わらわは大きな恥をかいた!この責任、どう取るつもりじゃ!」

(まぁ、叱責は仕方ないですかね)
 黙って頭を下げたまま、パーシファルは思う。
 実際に言えば、これは第1〜第3騎士団の責であって、パーシファルら他の騎士団長が怒られる筋合いは無いのだが、『 王国騎士団 ブリテンナイツ 』全体の問題としてはそうも行かない。
 ひたすら、女王の怒りが静まるまで頭を下げるしかないのである。

 だが考えてみれば、そもそも第1〜第3騎士団の出征を命じたのは女王ではなかったか。

 パーシファル自身はそうは思っていないが、騎士団が不甲斐無かったという可能性は、無かったわけではない。
 わざわざ第1〜第3騎士団という圧倒的な戦力を送り込んだのは、女王がそれを見越していた故、というのならば納得も出来る。

 だが、それでも負けたという事は、単に女王の先見が甘かっただけなのではないか?
 自軍の戦力を正確に把握できない事は、軍を動かす立場の者としては致命的な問題と言える。

 それともただ単に敵の戦力が予想以上に高かっただけなのか?
 いや、それにしても、『全滅』である。
 彼我の戦力差が圧倒的でなければ、この様な結果にはならぬ筈。
 一体何が起こったというのか……

「……如何したパーシファル。そんな面をしおって。わらわに何か言いたい事でもあるのかえ?」

 言われてパーシファルははっとする。
(しまった!また考え事を……)
 見ると、顔にしわを寄せた女王がこちらを睨みつけている。

「……申し訳ありません陛下。此度の戦にて死に逝った者達について、想いを馳せておりました」
 背中にひやりとした汗を感じつつも取り敢えずそう言い繕い、改めてうやうやしく頭を下げる。

「ほぅ?貴様はどう思うのだ?」
「陛下のご期待に沿えず、さぞかし無念であったであろうと……」

 言い繕った言葉ではあるが、そう思っているのも事実である。
 女王も特に不審には思わなかったのか、
「ふん、まぁ良い。」
 と引き下がった。

(ふぅ……)
 礼の姿勢に戻りながら、パーシファルは内心でため息をつく。
(この癖は、どうにかしないといけませんね……)
 このままでは、いつか身を滅ぼしかねない。

「ともかく」
 改めて一同を見据えながら女王は言う。
 今までの叱咤していた雰囲気から一転、その口調には命を下す王者の威厳が含まれていた。
 黙って頭を下げていたパーシファル以下家臣一同も居住まいを改める。

「このまま賊共を放っておく訳には行かぬ。
第4〜第6騎士団は、今夜中に戦の支度を終え、明朝には出陣せよ。
わらわを侮辱した者共を、一人残らず血祭に上げてくるのじゃ!」

「はっ!」
 女王の命に、一同は拝礼で答える。

 だがその中で1人だけ、異を唱えた者がいた。
「女王陛下、お待ち下さいませ。」
(!!)
 まさかこの緊張した間で発言をする者がいるとは思わず、パーシファルは驚きながら声の主に目を向けた。


 第6騎士団団長、トリストラムである。


「何じゃ、トリストラム」
 女王は明らかに不機嫌な表情を向けたが、構わずトリストラムは一礼して語りだす。

「畏れながら女王陛下に申し上げます。
先の戦では3騎士団を投入したにも関わらず、我らは無念ながら敗北を喫しました。
それは我らの考え以上の戦力が相手にあったという明確な証。
にも関わらず、同じ3騎士団を何の策も無しに再び投入するというのは、少々軽率では御座いませんか」

 朗々と流れる言葉には澱みが無い。
 自らの主君を前にして彼は、この場に居る者全ての意見を代弁しているかのようであった。

「ほう、ではそなたには何か策があると申すのか」
 不機嫌、というよりはむしろ楽しそうな表情になり女王が聞き返す。

「策というほどのものでは御座いませぬが……まずは敵の姿を知ることから始めるべきと存じます。
敵の数、質、正体。それらが分かってから行動を起こさねば、また先の戦の二の舞に……」
「下らん」

 全てを聞き終わる前に、女王はトリストラムの言葉を切って捨てた。

「貴様はこう言いたいのであろう?敵を知り、しかる後に行動に移せと。
だが敵は待ってはくれぬ。我らがこうしている間にも何を企んでいるのか分からぬのだぞ?
悠長にしていて足元をすくわれる訳にはいかぬのじゃ」
「しかし……ならばせめて、より多くの騎士を派遣すべきかと……」
「まだ分からぬか阿呆め。
これ以上騎士団を派遣などしたら、国防に備える騎士の数が足りなくなる。その機にもし奴らが攻めてでも来たらどうする?
3騎士団は、今出せる最大限の兵力ぞ。それに奴らは第一陣と戦った疲れも癒えてはいまい。この好機を逃していつ軍を出すというのだ?」

「………」

 女王の言葉にも矛盾は無い。そこまで言われては、トリストラムも大人しく引き下がるしかなかった。
 パーシファルも他の者と同様に、頭を下げた姿勢に戻りかける。

(………?)
 その時ふと、トリストラムと目が合った気がした。
 何か目線で合図を送ったように見えたのだが、パーシファルが気付いた時には、彼はもう礼の姿勢に戻ってしまっている。
(気のせい……か?)
 再び合図を送ってくる気配も無い。見間違いか、それとも意図はもう伝わったと思っているのか……

「良いか!」
 女王の声が響いて、パーシファルは急いで改めて姿勢を正す。
 トリストラムの件は気になるが、それは後で本人に聞けば良い。

「ここにブリタニア女王、ロゼリア・デル・アヴァロンが命を下す。
第4、第5、第6騎士団各団長は各々の騎士団を率い、明朝城下を出立せよ。
王国を脅かす賊共を、一人残らず討ち取ってまいれ!!」







 散会が命じられた後、パーシファルはトリストラムの私室へと向かっていた。
 本来ならば明日の出陣に備えて休息を取るべきなのだろうが、先のトリストラムの視線が何だったのかを、本人に問いただす為である。
 てっきり謁見の間を出た後すぐに話しかけてくると踏んでいたのだが、当のトリストラムは、
「あぁ、君か。明日は早い。ゆっくり休んでおきなさい。」
 とだけ言って、さっさと帰ってしまったのである。

 気のせい、として片付けてしまう事もできたのだが、如何せん、どうも気になって仕方が無い。
(あの場では話せない、という事か?)
 そうならば、トリストラムの態度も分かろうというものだが……

「トリストラム卿、いらっしゃいますか」
 部屋の前に着いてドアをノックすると、返事はすぐに返ってきた。
「あぁ君か。まぁ入りなさい」
「失礼します」
 部屋に入ると、ふわっと甘い香りが漂ってくる。
 見ると、部屋にいるのはトリストラムだけではないようである。

「あら、パーシファルじゃない」
「む、お前か」
「ローザ様?それにセシリアまで……」
 円卓を囲んでお茶を楽しんでいたのはローザ、そして第5騎士団団長、セシリアである。
(セシリアはともかくとして、何故ローザ様が?)
 疑問が顔に出ていたのか、察したローザが笑顔で言う。
「トリストラムが良いお茶を手に入れたって言うから、遊びに来たの」
「そういえば……トリストラム卿のご趣味は紅茶でしたね」
 なるほど、確かにこの姫の性格からすれば、十分に納得足りうる理由である。
 紅茶の蒐集など、およそ騎士が持つような趣味ではないのだが、どこか執事然とした雰囲気のあるトリストラムには違和感がない。
「姫様、あと少しで次のクッキーが焼けますよ」
「次はどんな素敵な味かしら?」
「先日手に入れた、桑の実を使った試作品になります。さて、美味く出来ていれば良いのですが」
 しかし、自前の前掛けを着け、楽しそうに菓子を焼くその姿は、若干やりすぎだと思わないでもないのだが……


「あたしはトリストラム卿に呼ばれたから来ただけだ」
 パーシファルの目線に気付いたセシリアがむすっとして言う。
 パーシファルが部屋に入ってからずっとこんな顔をしているが、大概において彼女は普段から仏頂面なのであまり気にはならない。むしろ気になるのは、
「……トリストラム卿。つまりはそういう事、と考えて宜しいのですか?」
 脱力したようにパーシファルが問う。
「はは……まぁ大方君の想像通りだと思うよ」
 トリストラムは苦笑しながら新しく煎れた紅茶を机に置いた。
「まぁ取り敢えず座ってくれ。立ったままでは話も出来ない」
「では」
 進められるままに、椅子に腰を下ろす。

(やはり、そういう話でしたか)
 一つの部屋に、明日出陣する3つの騎士団長が集められる。
 これはつまり、明日の作戦について何か話しておきたい事がある、ということを示唆している。
 しかもわざわざ偶然を装うということは、万が一にも誰かに聞かれてはならぬということになる。

(しかし、それならば……)
「……ところでトリストラム卿」
「ん?何かね?」
「その……言いにくいのですが、ローザ様には席を外していただいたほうが宜しいのではないでしょうか?」
 パーシファルの意見はもっともである。

 ローザは第一位王位継承権を持つ姫であり、ロゼリア女王に意見できる数少ない人物でもある。この会談が秘密のものである以上、聞かれないに越した事はない。

 だが、ローザはあっけらかんと言い放つ。
「あら、心外ね。みんなを集めるようにトリストラムに頼んだのは私なのよ?」
「………なんですって?」
 唖然となるパーシファルを面白がるようにローザは続ける。
「だーかーら。この話を持ちかけたのは私ってこと」
「いやはや、他でもない姫様のお頼みとあらば、このトリストラム、協力しないわけにもいくまい?」
 優雅に一礼して見せたトリストラムだが、その顔は笑っている。

「明日戦地へと赴く我らに、姫様が直々に 激励の言葉 ・・・・・ をかけて下さるそうだ。
人前では恥ずかしくて言えなかった ・・・・・・・・・・・・・・・・ ので、誰にも聞かれない場所を用意してくれとの仰せでね。
さぁ君もいい加減落ち着いて、姫様のお話に耳を傾けたまえ。
……あぁそうだ、お茶のおかわりはどうかね?」







 その 人前では恥ずかしい話 ・・・・・・・・・・ の概要はこうである。

 ――先の討伐隊は敵地に到着した夜に、戦うことなく忽然と姿を消し、朝にはもぬけの殻の陣が残されているだけだった。
 ――それに前後するように、周辺では黒いローブを着込んだ者達が目撃されている。
 ――それを目撃した者のほとんども、同様に姿を消しており、未だ見つかってはいない。

「……つまり」
 眉間にしわを寄せながら、パーシファルが言う。
「第一、第二、第三騎士団は、戦って負けたのではなく行方不明になっており、その背後には黒いローブの者達が見え隠れしている……と?」
「そういうこと」
 ローザも神妙な顔で頷き返す。

 何故戦にも関わらぬ、一国の王女たるローザが、このような情報を持っているのか。
 セシリアは唖然としていたが、普段からローザの 遊び ・・ に付き合っているパーシファルと、騎士として仕えてきた年数の長いトリストラムにとっては、特に驚くべき事ではなかった。
 普段から民や旅商人との交流の厚いローザの元には、時には国の上層部が握っている以上の情報が流れてくる。勿論それらは、確度の低い根も葉もないうわさだったりもするのだが、今回のように全く情報の無い場面においては、その見方も変わってくる。
 特に、3騎士団が負ける、という現実ではそうあり得ないことが起こっている現状、これらの噂は噂以上の価値を持っていた。

「旅商人のレイナル、アナッセ商会のギルド長・レイヴァン=アナッセ、それに情報屋のドリュー。この三人に聞いた話の中で、 完全に重複していた ・・・・・・・・・ 部分が今の話よ。
他にも『黒いローブを着た一団が、何も無かった所から忽然と現れた』とか、『騎士達が狂って、お互いを殺し始めた』とか言う噂もあったけれど……状況から見てもそれは怪しいところね。」
 他にも『黒衣の美女を見かけた』みたいな、どうでもいい話も多かったけどね。と嘆息して、ローザは話を一旦切った。

「それはまた……唐突と言いますか、突飛と言いますか……」
 いまいち信じがたい、という表情をするパーシファル。
「もしそれが本当だとしたら、我々の遠征も物見遊山気分、という訳にもいかないでしょうな」
 トリストラムも腕を組み、渋い顔を崩そうとしない。
「元より、物見遊山気分など無いがな」
 1人置いてけぼりを食らった形になったセシリアも、むすっとして言う。

(……そういえば)
 思い出したように、パーシファルが問う。
「……彼は」
「ん?何?」
「彼……モルドレッドについては、何か聞いてはいないでしょうか?」
「いえ……特に彼に関する話は聞いてないわ」
「……そうですか」

 パーシファルは特別モルドレッドと親しいわけではないが、前日にあのような話をしたばかりである。
 あのような話――『宰相補佐マリフェンのせいで、女王はおかしくなっているかもしれない』

 ――もしや、モルドレッドが女王を不審に思っている事を嗅ぎ付けられて、マリフェンによって消されたのではないか――
 と、そこまで考えて、己の想像の馬鹿らしさに呆れかえる。
『女王を不審に思った』位で消されるなんて事はあり得ないし、そもそもそれだったら呼びつけて処断なり何なりすればいい話である。軍団ごと消し去るなど、出来るか出来ないか以前に、やる意味が無い。
 こんな想像をしてしまうなんてどうかしている、と、パーシファルは軽く首を振ってその考えを振り払う。

「とりあえず今は、明日の事だ」
 切り出したのはセシリアだった。全員の視線がセシリアに向く。
「話の真偽はともかく、先の姫様の話が本当だとして、あたし達がどう動くべきか……それが問題だ」
「とは言え、『騎士団が消えた』というだけでは何とも言いようが無い。取り合えずとしてはその事を頭に入れた上で、普段通りに進軍するしかあるまい」
 トリストラムが厳しい顔で言う。
「……しかし」
「ならば具体的にどうすると言うのだね?」
「………」
 情報が曖昧なものである以上、トリストラムの言う通りである。
 それでも納得の行かない顔をしているセシリアだったが、
「まぁ先遣の部隊は夜に消えた、との話ですから、夜の警備も万全にしておく位の対策は打てると思いますよ」
 というパーシファルの言葉に、「……そうだな」と大人しく引き下がった。


 それから3人(とたまにローザ)で遠征について話し合ったが、明日の出陣は早い。適当な時間で解散の運びとなった。






 そして夜も更けた頃、王宮の回廊を歩く二人の影があった。
 パーシファルと、セシリアである。
 ちなみにセシリアの背にはローザが背負われている――話の途中で睡魔に耐え切れなくなったのか、部屋に備え付けのソファーで寝てしまったのである。部屋に送ろうにも、騎士の身分では王女の部屋に入ることは許されておらず、取り敢えずセシリアの部屋に寝かせようという事になったのである。
「なぁパーシー」
「ん?何ですか?」
「………敬語はやめろ。さっきまではともかく、今はあたしだけだ」
「まぁローザ様もいますがね――で、何だい?セシル」
「例の敵の事。お前はどう思う?」
「そうだね……」

 常に誰に対しても、自分にさえも敬語を崩さないパーシファルにしては珍しい口調。
 セシル≠ニいう愛称も、二人きりの時の彼以外に、呼ぶものは居ない。


 パーシファルとセシリアとの付き合いは、幼少の頃まで遡る。
 親の居ない子供として、お互い街角をうろついていた頃に出会い、それから色々と由縁あって騎士になり、功績を挙げ、騎士団長になるまでずっと共に歩んできた。
 普段から敬語を崩さないパーシファルも、セシリアの前だけでは素、というより昔のままの喋り方を使う。

 セシリアの言うパーシー≠焉Aうっかり二人で話しているのをローザに聞かれてしまい、それが切っ掛けでローザに使われるようになったが、もともとはセシリアがパーシファルに対して使っている愛称である。


「確かに『軍隊が消えた』なんて事は信じがたい話だけど、だからと言って僕が」
 と言ってから、気恥ずかしそうに頬をかく。
 気恥ずかしそうなパーシファルなど、それこそモルドレッド辺りなら飛び上がって驚くことだろう。普段の彼はあくまでお堅い$l間で通っているのである。
「いやはや、『僕』なんて久しぶりに使ったな。どうも気恥ずかしい――ええと、僕達が心配したところで、どうしようもない事だと思うけどね。
勿論多くの懸案事項は残るけど、結局は起こってみなきゃ分からない事だし」
「………」
「この世には、そんな都合の良い『不思議』なんて無いよ。
神話の時代の『雷神の民伝承』や、北方で信じられている『氷の王伝説』なんてものは、後世の人が作った『おとぎ話』さ。
まぁ僕の意見から言わせて貰えば、ローザ様の話自体は怪しいところだ、というのが本音だね」
「それは分かっている。分かっているんだが……」
「不安かい?」
 セシリアの迷いを見透かすように、パーシファルが言う。
「誰が不安なものか!……いや、不安なのかもしれないな。敵の姿が見えないっていうのが、どうもな……」
 一瞬声を荒げかけたセシリアだったが、彼女にしては珍しく素直に肯定する。
 素直なセシリアというのも、またそうそう見られるものではない。これまたモルドレッドが見たら泡を吹いて驚くだろう。
「それに、それだけでなくこの戦、何か 違和感がある ・・・・・・
それが何か、と言われると自分でも分からないんだが……とにかく嫌な感じが拭えないんだ」
 まあ多分気のせいだろうけど、とセシリアは軽く首を振り、ローザを背負い直す。


 セシリアの部屋に着き、二人はセシリアのベッドにローザを寝かしつける。
 仮にも一国の姫を、女性とはいえ騎士の寝床に寝かせるなど、他国からしたらあり得ない行為だろうが、まぁローザがそんなことを気にする人ではない、という事は城中の者なら誰でも承知している。
「今日はもう遅い。明日出陣とは言え、すぐに敵と会うわけじゃない。悩むのはこの辺にして、ゆっくり休むといい」
 ローザに毛布を掛けながらパーシファルが言う。
「そうだな……あぁ、そうさせてもらうよ」
 ベッドの使えないセシリアは床で寝るようだが、そこは野宿慣れしている騎士である。何のことは無い。
 予備の毛布をセシリアに渡し、パーシファルは早々に退出する。

「それじゃあセシル、おやすみ」
「ああ。おやすみ。パーシー」

 バタン、と閉じた扉を背に、自室へ向かい歩き出す。
 雲ひとつ無い空から降り注ぐ星明りは、明るい。

 ――明日は、晴れそうだ






 翌朝――

 首都Londiniumを離れ、威風堂々と第4、第5、第6騎士団が進軍していく。
 見事に晴れ上がった空の下、騎士達は一糸乱れぬ行進を続ける。


 先頭を行くは、白い甲冑の騎士・パーシファル。
 右手には「雷槍」と謳われる、彼愛用の 騎兵槍 スピア
 その槍捌きは雷の如し。古き神話の時代の、雷の槍を自由に操ったとされる「雷神の民」の末裔ではないかと囁かれる。

 右後を行くは、赤い甲冑の騎士・セシリア。
 真っ直ぐ前を見つめるその眼差しは、凛として揺るがない。
 その苛烈さは烈火の如し。自身が陣頭に立って突っ込む、ブリタニア1の女傑。

 左後を行くは、鈍く光る甲冑の騎士・トリストラム。
 穏やかな表情に秘められるは、理の輝き。
 その用兵は磐石の如し。兵を扱う事に関しては右に出るものが居ない、堅実なる智将。



 Norwichへの到着まで、あと5日――




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